2008年11月例会 「しいたけ栽培名人」 ~原木にこだわり続けて

開催月日  2008年11月22日(土)
開催市町  朝来市和田山
テーマ   しいたけ栽培名人 ~原木にこだわり続けて~
講 師   畠山 弘さん(兵庫県きのこ生産振興会会長)
参加者   谷岡、飯尾、宮本、浜野、島垣、成田、中嶋、西躰
      小川、戸田、福井、高石(12名)
      会員外1名(足立)
担 当   高石、福井、足立(報告者:例会の時点では会員外)

■ 趣旨
大量に輸入される中国産しいたけに押されて衰退する一方の栽培林家。巷のマーケットでは菌床栽培が主流になりつつある中で、原木栽培にこだわり続けて40年。全国・兵庫県の品評会において57回入賞、名人の認定を得た畠山さんのしいたけ栽培の工夫の数々と美味しさの秘密とは?

■ 講師紹介
畠山 弘さん

朝来市和田山町久田和在住
兵庫県きのこ生産振興会会長
日本特用林産振興会名手名人認定
兵庫県指導林家
各種の品評会での受賞暦57回(品評会は生産者の祭りやと思うてるから出します)

 

■ 内容

原木栽培と菌床栽培の違い

始めた当時はほとんどの林家が原木栽培だった。今は逆にほとんどが菌床栽培。菌床は糠におがくずや薬品を混ぜたものを固めて作ったもの。菌床栽培は約30年前から徐々に広まってきた。そして、25、6年前から中国のしいたけが入ってきた。安い中国産しいたけが入ってきたことで相場が崩れた。特に干ししいたけの安いものが大量に流入した。その多くは加工食品の原料に使われている。今の日本の干ししいたけの生産量が3600トン。一方消費量は12300トン。不足分はほぼ中国からの輸入。


安い中国産しいたけに押される中、重労働を伴う原木栽培に比べて、菌床のほうが体力的にもきつくなくて、大量生産、企業的な生産に向いている面がある。一方で菌床栽培は、菌床に様々な化学薬品が混ぜられている場合がある。原木栽培はほぼ100%天然のものを使う。食の安全性の面から僕は菌床栽培に疑問がある。また、栄養価についても原木栽培のしいたけの方が優れていると考えている。人に喜んでもらうものを作りたいという、志に反すると感じる部分があるため菌床栽培はせず、原木栽培にこだわっている。

研究と工夫の数々

採算性を考えると、半年発生で栽培しないといけない。それで色々なところを見てまわって、話を聞いて研究した。しいたけ菌は、温度が15度から22度の時に一番活発に活動する。7度より低いと活動しない。以前は4月に殖菌して、すぐ山に持って行って5月から6月になり暖かくなるのを待った。しかし、10度から15度を3000時間キープできたら半年でも生えるということに研究の結果行き着いた。今は2月に殖菌している。寒い時期だがハウスかまたはナイロンにくるむことで温度調節ができる。その状態にしておけば大丈夫。また殖菌の数を倍にしている。倍に植えて春と同じ状態にすれば菌が原木の中にまわってくれる。
それから、弟に開発してもらったマイコンの存在も大きい。これで温度と散水量を制御できるようになった。コンピューターの導入は県内の原木栽培林家で唯一。これで2年を半年に短縮することが可能になった。今の時期から2月にかけて栽培しているのは雪の降る地方しか取れない品種。10月までと4月20日からと2種類の品種を、年間を通して栽培している。

原木は、樹種はコナラ、この辺ではホウソともいう。その17年から25年生のものがよい。それから切ってから3ヶ月から5ヶ月のものじゃないと菌がまわらない。5ヶ月でもちょっとたちすぎ乾いてしまっている。立ち木だと水分がありすぎる。


最近は木を切る方が減っているため木が大きくなってしまっている。大きい(古い)木は皮が硬くてしいたけが生えにくい。今は90パーセントほどは東北の木を使っている。東北のものは皮が薄くて生えやすい。残りは近くで切ったもので買ってくれませんかという話があったものを使っている。

 

しいたけはあほやから??

丸太に殖菌するのは機械を使って1本あたり60箇所。一個約3円。一番生えやすいのは6月の梅雨の時期。その後の7月とかはちょっと散水してやる。それから生える前に一昼夜水につけないと生えない。(今、家では裏の山からとった山水を、温度調節しながら使っている。)しいたけはあほやから、刺激を与えないと生えない。温度差の刺激で生えてくる。よく原木の頭を金槌でたたくと生えるというが本当で、水の刺激を与えた上でたたけば確かに良く生える。

使えるものは最後まで

原木はサイクルに載せて繰り返し使う。目安としては8回転したら廃木にしている。それ以上でも生えるけど、小さいものしかできなくなる。8回転を終えたら山に持っていって2年ほど積んでおく。そうするとカブトムシの幼虫がたくさん入ってくる。その後はクワガタムシの業者さんに売る。最後まで資源は無駄にしない。

畠山さんのしいたけの価値と美味しさの秘密

しいたけは何といっても分厚いのほど美味しい。今の時期から2月に栽培しているのは雪の降る地方でしか取れない品種。冬の2月あたりの日が照らない時期はゆっくりしか成長しない。ハウスに機械を入れて温度を上げる方法もあるけど、それはしていない。そのかわりに沢山ハウスを持っている(7本)。成長はゆっくりだけどその分時間をかけて美味しくなる。それから採ってすぐに冷蔵庫に入れると身がしまる。完全無農薬で安全で美味しいものを作りたいと思っている。

 

しいたけの美味しい保存方法

10年前までは郡農協に100パーセント出荷していた。農協さんを窓口に郡内の生産者は奨励金をもらって組合を作っていた。私も役員を務めたこともある。その頃農協さんに全部卸してしまうことに役員の中で一人反対していた。農協さんに出荷したら、農協さんから市場に出荷されて競りにかけられる。あなた任せではなくて自分で販路を開拓しないといけない、そうでないと将来採算がとれなくなるんではないかという思いがあった。姫路の卸問屋に直接売ろうとしたこともある。

 現在は近隣の道の駅3箇所とAコープさん、ジャスコさんに直接出荷している。今の時期は朝と夕方に採取をして包装し、合間を見て午前中に出荷にまわっている。

 以前にはネット販売も進められたこともあったがそれはやらなかった。注文があった時に、今はありませんというのが申し訳ないから。その代わり、運送会社と提携して直接販売をするようになった。きっかけは、どこかでしいたけを買われたお客さんからラベルを見て直接売ってくれないかという問い合わせがくることが度々あったから。北海道と沖縄以外は次の日の間に届けることができる。今、遠いところでは那覇市のお客さんで毎年買ってもらっている方がいる。そういう待ってくれているお客さんが全国にいるから、後継者がいなくて僕もいつまでできるかわからないけど、健康な限りやると決めている。

 

但馬のシイタケ栽培の過去・現在・未来

 26年ほど前に組合を作ったときは、旧朝来郡内で年間1000本以上殖菌される林家が45名だった。15年ほど前に組合が生産者の減少でなくなった。今市内で3名ほどしかいない。但馬全体で27、8人。県内をみても原木生産者の後継者がほとんど育っていない。

取引価格は30年前でキロ7000円、今は高値の平均でキロ7000円。これではやっていけない。それでも県で何人かは生き残っている。始めたころは僕が一番若かったが今この歳。当時の先輩は亡くなった方も半分以上。新規の参入者もいない。生産者は減る一方。80歳にもなると体力的にも難しい。日本産が足りず、仕方なく輸入しているという言い方をされることもあるが、僕はちょっと納得がいかない思いがある。僕の売っているやつは全部売れている。完売。需要はあるはずだと思う。

【11月例会を担当して】

○椎茸に原木栽培と菌床栽培とがあることすら知らずに訪問させていただきました。ビニールハウスに入るとずらっと奥の方までぎっしりと並ぶ原木。そこににょきにょき顔を出している椎茸。畠山さんは、とても楽しそうに椎茸作りの話しをしてくださいましたが、原木を冷たい水に浸して、それをビニールハウスへ運んで・・・重労働。包装した椎茸をお店まで運ぶのも大変。それを毎日。

早速、例会後に店頭に並んだ椎茸を見に行ってきました。ありました。畠山さんのお写真に原木栽培の説明書き。そして、こだわりの椎茸。食べてみると本当にしっかりした味がしておいしい。

しかし、そんな椎茸つくりも後継者が少なくなってきていると聞くと何だかさみしい気がしました。畠山さんも自分の代で終わりなのだそう。とても残念。

今回の例会を通じて、自分自身が納得出来る物を作り続ける畠山さんの生き方もすばらしいなと感じました。今後は原木栽培椎茸に希少価値が付いて高値が付く日も近いかも!?(H・H)



○専業農家として食べていくことに多くの障害のある但馬にあって、それを成り立たせている畠山さんの大変なバイタリティーと工夫の数々に感銘を受けました。同じ市内に住む者としても、こんなすごい人がいたのかとうれしく思いました。
例会前、現在の手の入らなくなることで荒れてしまった山に対して、しいたけのような林産物の生産は、山の資源を活かし環境を維持するための一つのキーになるのではという思いがありました。畠山さんは、裏山から流れる冷涼な水をほだ木づくりに活用したり、廃木の再利用を考えたりと、資源を有効利用する様々な工夫をされていました。一方で、しいたけの品質の向上とコストの面から、原木については主に東北から取り寄せておられるということでした。一つの理想形として、全てのものが地域内の資源によって賄われた循環型の産業があるとして、採算や商品価値等を考えると簡単ではないのが現状なのかなと感じました。でも東北の木から生まれた畠山さんのしいたけはとても美味しい。理想形は一つではなく今の現実に合わせた違う形の理想形は無いだろうか。考えはうまくまとまりませんでしたが、畠山さんのしいたけにかける情熱に刺激されて、思いは色々と巡りました。(T・A)

○畠山さんのしいたけはみずみずしくよい香りがして本当に美味しい。木の精(エキス)が宿っているような味わいである。以来、マーケットでも原木か菌床をみて買うようになりました。原木しいたけを買うことで、栽培林家を支えることになります。原木の9割は東北から移入されるとのこと。それで東北の林業が成り立ち、山が保全されるともいえます。
しいたけ栽培の研究と工夫の数々を公開し、訪ねてきた同業者にそれを伝えておられることはすばらしいと感じました。
但馬でも原木しいたけ栽培は減少の一途をたどっています。後継者が生まれる土壌はもうなくなってしまっているのでしょうか。(S・T)

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