2009年9月例会 日本海誕生の鍵は但馬にあった~但馬の地学を学ぶ 山陰ジオパークとは~
テーマ:日本海誕生の鍵は但馬にあった
     ~但馬の地学を学ぶ 山陰ジオパークとは~
日 時:2009年9月26日(土)13:00~
場 所:山陰海岸ジオパーク館会議室(新温泉町)
講 師:谷本 勇氏(ジオパーク調査専門員)

「山陰海岸ジオパークのテーマと特徴」 
○ジオパーク館とは
このジオパーク館は、旧浜坂マリンポーチを改修し今年8月に竣工したばかりです。
お気づきのように、ここにはあまり展示物のようなものはありません。ここは見るところではなく、研修や体験学習の場として、また山陰海岸ジオパーク全体の情報がここにくればわかるという情報基地になることが狙いです。
山陰海岸ジオパークは13のエリアからなります。それぞれのエリアに拠点施設(例えば竹野の北前館、豊岡のコウノトリの郷公園など)がありますが、ジオパーク全体の情報拠点として、それらを束ねる施設になりたいと手を挙げている状況です。

※山陰海岸ジオパークの13のエリア
=鳥取砂丘・浦富海岸・但馬御火浦・浜坂海岸・香住海岸・竹野海岸・経ヶ岬~間人・琴引浜~久美浜・郷村断層・円山川・神鍋・扇ノ山  
                          
○ジオパーク指定に立候補した経緯
なぜジオパークの指定に立候補することになったのか、その経緯をお話します。
もともとは夢テーブルの委員の方が但馬を元気にする方法の一つとして考えたことです。
但馬地域の活性化のために、何か起爆剤になるものは無いかと考えた時に、山陰海岸国立公園があるという話になりました。ただし現在の山陰海岸では、一番良い視点場である海から海岸を眺める場所が少なく、三箇所からでている遊覧船から一部を見られるのみです。起爆剤としてもっと人を呼ぶためにはどうしたらいいか考えました。
最初は世界遺産にしようと考え、H14年から立候補に向けて活動を始めました。色々と活動しましたが前回の世界遺産の選考では残念ながら落選しました。
世界遺産には自然遺産のほかに、産業遺産や歴史遺産などいくつかのジャンルがあります。選考は毎回別のジャンルについて行われます。したがって次に自然遺産の選考があるのはおそらく7年後ということになってしまいます。
それではすごく先の話になってしまいます。では他に何か無いかというときに、ジオパークに推薦してはどうかというアイデアをいただきました。

○ジオパークって何?
ジオパークを分解して訳しますと、ジオ=Geography=大地・地球、パーク=park=公園です。中国では「地質公園」と訳していますが、地球の営みを学んだり活用したりする場所であるといえます。地質・地形をベースにその上に広がる植生や野生動物、そしてそこで営まれてきた文化等が優れた場所が指定されます。
ジオパークという枠組みは2004年に生まれました。現時点ではヨーロッパと中国に指定地があり、18カ国60地域が登録されています。世界遺産は保護の視点しかありませんが、ジオパークは保護と活用の両面から考えられているという違いがあります。ジオパークの指定を受けたところは地域の活性化につながっているところも多いそうです。
以前、中国の泰山でジオパークの委員会がありました。中国では観光と絡めてジオパークの指定を進めています。泰山はもともと世界遺産に登録されていますが、ジオパークの指定により、より多くの人に来てもらおうと考えているのではと推し量られました。

○ジオパーク指定のための活動の開始
活動を始めた当時、日本にはまだ指定を受けた場所はありませんでした。
どうしたらジオパークになれるのか。文科省にも問い合わせましたが取り合ってもらえませんでした。そこで、但馬から鳥取にかけての日本海沿岸の自治体で組織されたコリドー21に働きかけました。熱意が伝わり色々と頑張ってくれて、話が前に進みはじめました。  
では国内の他の地域で活動しているところは無いかと調べますと、翡翠や化石の産出で有名な糸魚川で、すでにジオパークという名前を冠した活動が始まっていました。
ジオパークの指定に向けて一緒に活動しようと声をかけると洞爺湖、雲仙も手を上げました。後に室戸も手を上げました。ところが、まだその国にジオパークがない場合は、一度の選考で一カ国につき3ヵ所までしか指定できないというルールがありました。
そこで、選考委員会が立ち上げられ、活動内容、自然資源、組織体制等を評価して選考がおこなわれました。しかし山陰海岸は、組織はまだ未整備で、鳥取砂丘、玄武洞、なき砂文化館などがありましたが、少しアピールする資源が不足している感がありました。選考の結果、やはりというべきか、糸魚川、洞爺湖、雲仙の3ヵ所が選ばれました。

○ 山陰海岸ジオパークのテーマと特徴は?
ジオパークには何故ジオパークにするのかという価値を示すテーマがいります。
山陰海岸では全体を統合するイメージが曖昧なままでした。
そこで、日本海の形成との関わりという切り口から整理できないかと考えました。整理を進めた結果、山陰海岸の地形・地質的特長を6つにまとめました。
1.日本海形成に関わる多様な火成岩・堆積岩層の分布とそれらの岩石海岸での露出
2.日本海沿岸の多様な海岸地形
3.日本海形成後も引き続く火山活動による火山噴出物・火山地形
4.第四紀における地磁気逆転期の発見サイト(玄武洞)
5.火成活動の影響を受けた豊富な温泉資源(昔からある自然流出の温泉)
6.日本海沿岸で生じる第四紀地殻活動を示す活断層・海岸段丘  
次に、6つの地形・地質的特徴に加えて、人との関わりに関する特徴も以下の6つに整理しました。
1.北前船に代表される海洋交易の歴史
2.水産物や温泉等による観光拠点
3.地形を利用した土地利用
4.鳥取砂丘の草原化防止の取り組み
5.コウノトリの保護活動
6.地震災害とその復興の歴史、豊富な温泉資源の活用。
                                                                                                                                                                                      
○地質年代とジオテーマ
地形地質の多様性と広域にわたるジオパークエリアを効果的に利活用するため、地史にそって5つのテーマを設定しました。
Ⅰ 日本海形成前の大陸の時代
Ⅱ 日本海形成へ向けた前駆的内陸盆地と安山岩質マグマ活動の時代(香住の足跡化石)
Ⅲ 日本海形成と流紋岩質マグマ活動の時代(日本海ができた)
Ⅳ 日本海成立後に引き続く火山活動の時代(照来山の昆虫化石。巨大なカルデラだった。)
Ⅴ 現在の地形形成と第四紀火山の時代(リアス式海岸)

○一番大事なこと
今後は、それぞれの地域を案内してくれる人が必要になってきます。
そして、地元の人と海外を含む各地からの来訪者の間に、ジオパークを介在して交流が生まれる。ここ(山陰)にいながらにして世界と繋がることができるようになる。このことが一番大事なことだと思っています。

・感想
ジオパーク指定への取り組みはまだ始まったばかりのものでこれからが大事であることがわかった。しかし地質時代から始まる話が、近現代の人々の営みとそれによって生まれた風景までカバーするスケールの大きな物語となる可能性も秘めている。もしこの壮大な物語を語ることができればすばらしいことだと思う。

(報告者:足立 徹)



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